はじめに:合格=宅建士ではない!
宅建試験に合格した瞬間、多くの人が「これで宅建士だ!」と喜びます。
しかし、実はそこに大きな落とし穴があります。
試験合格はスタートラインに過ぎず、実際に宅建士として働くには「登録」という重要なステップが必要なのです。そして、この登録を拒否される「欠格事由」に該当する人が、毎年一定数います。
「え、試験に受かったのに登録できないってどういうこと?」 「自分は大丈夫だと思うけど、本当に確認した方がいいの?」
この記事では、そんな疑問にすべて答えます。宅建試験の受験を考えている方も、すでに合格した方も、必ず読んでおくべき内容です。
この記事で分かること
✅ 宅建士になれない「欠格事由」の全パターン ✅ 試験で狙われる引っかけポイント ✅ 実際の過去問を使った解説 ✅ 自分が該当するか確認する方法 ✅ よくある勘違いTOP5
読了時間:約15分
第1章:欠格事由とは何か?【基礎知識編】
1-1. 欠格事由の定義
欠格事由とは、簡単に言うと**「この条件に当てはまる人は、宅建士になれません(宅建業もできません)」という法律で定められたNGリスト**です。
宅地建物取引業法という法律の第5条と第18条に、びっしりと書かれています。
1-2. なぜ欠格事由があるのか?
不動産取引は、人生で最も高額な買い物です。マイホーム購入で3000万円、4000万円という金額が動きます。
だからこそ、**「信頼できない人には絶対に任せられない」**というのが法律の考え方です。
具体的には:
- 過去に詐欺や暴力事件を起こした人
- 破産して金銭管理ができない人
- 精神的に判断能力が欠けている人
- 暴力団関係者
こういった人たちを排除することで、一般消費者を守っているのです。
1-3. 試験での出題頻度
宅建試験では、毎年必ず2~3問出題されます。
年度 | 出題数 | 問題番号 |
---|---|---|
令和5年 | 2問 | 問29、問43 |
令和4年 | 2問 | 問27、問42 |
令和3年 | 3問 | 問27、問28、問43 |
得点源になる分野なので、確実に押さえましょう!
第2章:最重要!宅建業者と宅建士の違い
2-1. ここが混乱のもと
試験勉強をしていると、「宅建業者の欠格事由」と「宅建士の欠格事由」という2つの言葉が出てきます。
これらは似ているようで、微妙に違います。
多くの受験生が、ここで混乱します。
2-2. 宅建業者とは?
宅建業者 = 不動産会社(法人または個人事業主)
不動産の売買・仲介・賃貸などを業として行う会社や個人のことです。
- 国土交通大臣または都道府県知事から「免許」を受ける必要がある
- 欠格事由があると免許を受けられない
2-3. 宅建士とは?
宅建士 = 宅建試験に合格し、登録した個人
不動産取引において、以下の独占業務を行います:
- 重要事項説明
- 重要事項説明書への記名押印
- 契約書への記名押印
- 試験合格後、都道府県知事に「登録」する
- 欠格事由があると登録できない
2-4. 比較表で理解する
項目 | 宅建業者 | 宅建士 |
---|---|---|
主体 | 会社・個人事業主 | 個人 |
取得するもの | 免許 | 登録・取引士証 |
欠格事由の対象 | 法人の役員、政令使用人、個人事業主本人 | 登録申請する個人 |
できること | 不動産業の営業 | 重要事項説明など独占業務 |
必要な配置 | - | 事務所5人に1人以上の専任宅建士 |
2-5. よくある勘違い①
❌ 間違い:「宅建士の資格を取れば、すぐに不動産会社を開業できる」
✅ 正解:「宅建士の資格とは別に、宅建業者の免許が必要」
宅建士の資格を持っていても、それだけでは不動産業はできません!
第3章:欠格事由の全パターン【完全網羅】
ここからが本題です。欠格事由を14のパターンに分けて解説します。
パターン①:成年被後見人・被保佐人
該当する人:
- 認知症などで判断能力が著しく不十分として、家庭裁判所から後見・保佐の審判を受けた人
注意点:
- 後見・保佐の取消しを受ければ、直ちに欠格ではなくなる
パターン②:破産者(復権を得ていない)
該当する人:
- 破産手続開始の決定を受けて、まだ復権を得ていない人
過去問CHECK!【令和2年 問27】
問:破産手続開始の決定がなされた後、復権を得てから5年を経過しない者がいる場合、免許を受けることができない?
答え:✕(誤り)
復権を得れば、5年を待たずに直ちに免許OK!
これは超頻出の引っかけです。「5年」という言葉に惑わされないように!
復権とは?
- 破産によって失った権利を回復すること
- 免責許可の決定が確定すれば、自動的に復権
- 復権すれば、その日から欠格事由ではなくなる
パターン③:禁錮以上の刑(どんな犯罪でもNG)
該当する人:
- 禁錮、懲役、死刑に処せられ、刑の執行終了から5年を経過していない人
ポイント:犯罪の種類は問わない!
過去問CHECK!【令和5年 問29】
問:政令で定める使用人が、道路交通法違反により懲役の刑に処せられた場合、法人の免許は取り消される?
答え:◯(正しい)
道路交通法違反であっても、懲役刑なら欠格事由!
実例で理解:
- 窃盗罪で懲役1年 → 刑務所から出て5年間は欠格
- 詐欺罪で懲役2年 → 刑務所から出て5年間は欠格
- 業務上過失致死で禁錮6月 → 刑の執行後5年間は欠格
パターン④:一定の罰金刑(特定の犯罪のみNG)
罰金刑で欠格事由となる犯罪:
- 宅建業法違反
- 背任罪
- 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律違反
- 傷害罪
- 傷害現場助勢罪
- 暴行罪
- 暴力行為等処罰法違反
- 凶器準備集合結集罪
- 脅迫罪
覚え方の語呂合わせ:
「緊張しすぎて 宅配業者 ぶん殴って罰金 5年」
- 緊張(禁錮・懲役)
- 宅配業者(宅建業法・背任罪・暴力的犯罪)
- 罰金5年
過去問CHECK!【平成23年 問27】
問:詐欺罪により罰金刑に処せられ、刑の執行が終わった日から5年を経過しない場合、免許を受けることができない?
答え:✕(誤り)
詐欺罪は上記リストに含まれないため、罰金刑では欠格事由にならない!
頻出の引っかけ:罰金刑でOKな犯罪
犯罪名 | 罰金刑の場合 |
---|---|
詐欺罪 | ✅ 欠格事由にならない |
器物損壊罪 | ✅ 欠格事由にならない |
横領罪 | ✅ 欠格事由にならない |
窃盗罪 | ✅ 欠格事由にならない |
過失傷害罪 | ✅ 欠格事由にならない |
ただし、これらでも懲役・禁錮刑なら欠格事由です!
パターン⑤:科料・拘留(すべてOK)
科料・拘留では、どんな犯罪でも欠格事由になりません。
過去問CHECK!【令和2年 問27】
問:道路交通法違反により科料に処せられた場合、免許を受けることができない?
答え:✕(誤り)
科料(1,000円~1万円未満)は、最も軽い刑罰で欠格事由にはなりません。
刑罰の重さ順:
軽 ← 科料 < 拘留 < 罰金 < 禁錮 < 懲役 < 死刑 → 重
罰金以上が欠格事由の対象です。
パターン⑥:執行猶予(猶予期間満了でOK)
執行猶予期間を満了すれば、5年を待たずに直ちに欠格ではなくなる!
過去問CHECK!【平成27年 問27】
問:懲役1年執行猶予2年の刑に処せられ、執行猶予期間を満了した場合、その満了の日から5年を経過していなくても免許を受けることができる?
答え:◯(正しい)
執行猶予期間を無事に過ごせば、実刑判決ではないため、5年を待つ必要はありません。
注意点:
- 執行猶予期間中は欠格事由(刑が確定していない)
- 執行猶予期間満了後は直ちに欠格事由ではなくなる
パターン⑦:免許取消処分(5年間NG)
3大悪による免許取消の場合:
- 不正の手段により免許を取得
- 業務停止処分に違反
- 業務停止処分事由に該当し、情状が特に重い
欠格事由となる人:
- 取消を受けた宅建業者本人(5年間)
- 法人の場合、聴聞公示日の60日前~取消日までの役員だった人(5年間)
駆け込み廃業も同じ扱い:
- 聴聞公示後に廃業届を出しても、5年間は欠格
パターン⑧:暴力団関係者(5年間NG)
該当する人:
- 現役の暴力団員
- 暴力団員でなくなった日から5年を経過していない人
完全に縁を切ってから5年経たないと、宅建業にも宅建士にもなれません。
パターン⑨:未成年者(宅建業者と宅建士で違う!)
ここは超重要!混同しやすいポイントです。
【宅建業者の場合】
成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でも、法定代理人が欠格事由でなければ免許OK
【宅建士の場合】
成年者と同一の行為能力を有しない未成年者は登録不可(法定代理人は関係ない)
過去問CHECK!【平成27年 問27】
問:成年者と同一の行為能力を有する未成年者で、その法定代理人が禁錮以上の刑に処せられている場合、免許を受けることができない?
答え:✕(誤り)
成年者と同一の行為能力を有する未成年者(婚姻などにより)は、法定代理人の欠格事由は影響しません。
補足:
- 民法改正により、成年年齢は18歳
- 18歳以上なら、通常は問題なし
パターン⑩:宅建業に関して不正・不当な行為(過去5年)
該当する人:
- 免許申請前5年以内に、宅建業に関して不正または著しく不当な行為をした者
これは宅建業者・宅建士共通の欠格事由です。
パターン⑪:事務禁止処分(宅建士のみ)
該当する人:
- 事務禁止処分を受け、その期間中の者
- 事務禁止処分期間中に自ら登録消除し、まだ期間が明けていない者
駆け込み消除しても無駄: 事務禁止期間が明けるまでは、再登録できません。
パターン⑫:登録消除処分(宅建士のみ、5年間NG)
登録消除となる重大な違反:
- 不正の手段で登録を受けた
- 不正の手段で宅建士証の交付を受けた
- 事務禁止処分事由に該当し、情状が特に重い
- 事務禁止処分に違反した
処分の日から5年間は再登録不可。
パターン⑬:心身の故障
該当する人: 精神の機能の障害により、宅建士の事務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
注意: 障害の有無ではなく、業務を適正に行えるかが基準。
パターン⑭:宅建業に関して不誠実な行為
該当する人: 宅建業に関して不正または不誠実な行為をするおそれが明らかな者
第4章:試験で差がつく!引っかけポイントTOP5
引っかけ①:復権・執行猶予=5年待つ?
❌ よくある間違い:「復権を得ても5年待つ必要がある」
✅ 正解:「復権・執行猶予期間満了なら、直ちにOK!」
引っかけ②:詐欺罪の罰金刑は?
❌ よくある間違い:「詐欺罪は悪質だから罰金でもNG」
✅ 正解:「詐欺罪は罰金刑ではOK(背任罪はNG)」
引っかけ③:科料と罰金
❌ よくある間違い:「科料も罰金も同じ金銭罰だからNG」
✅ 正解:「科料は1万円未満で欠格事由にならない」
引っかけ④:過失傷害罪
❌ よくある間違い:「傷害罪だから罰金でもNG」
✅ 正解:「過失傷害罪は罰金ではOK(故意の傷害罪はNG)」
引っかけ⑤:未成年者の法定代理人
❌ よくある間違い:「宅建士も法定代理人が欠格事由でなければOK」
✅ 正解:「宅建士の場合、成年者と同一の行為能力を有しない未成年者は登録不可」
第5章:実践!過去問で腕試し
問題1【令和元年 問43】
法人の専任取引士が、刑法第261条(器物損壊等)の罪により罰金刑に処せられた場合、その刑の執行が終わった日から5年を経過しなければ、当該法人は免許を受けることができない。
あなたの答えは?<details> <summary>答えを見る</summary>
答え:✕(誤り)
器物損壊罪は、罰金刑で欠格事由となる「一定の犯罪」に含まれません。したがって、5年を待たずに免許を受けることができます。</details>
問題2【令和5年 問29】
宅地建物取引業者A社の使用人であって、A社の宅地建物取引業を行う支店の代表者であるものが、道路交通法の規定に違反したことにより懲役の刑に処せられた場合、A社の免許は取り消されることはない。
あなたの答えは?<details> <summary>答えを見る</summary>
答え:✕(誤り)
支店の代表者は「政令で定める使用人」に該当します。懲役刑は犯罪の種類を問わず欠格事由となるため、A社の免許は取り消されます。</details>
問題3【令和2年 問27】
法人の役員のうちに、破産手続開始の決定がなされた後、復権を得てから5年を経過しない者がいる場合、当該法人は免許を受けることができない。
あなたの答えは?<details> <summary>答えを見る</summary>
答え:✕(誤り)
復権を得れば、直ちに欠格事由ではなくなります。5年を待つ必要はありません。</details>
第6章:こんな時どうする?Q&A集
Q1. 昔の交通違反の罰金、欠格事由になる?
A: 一般的な交通違反(速度超過、駐車違反など)の罰金は欠格事由になりません。ただし、危険運転致死傷罪などで懲役刑を受けた場合は、5年間欠格事由です。
Q2. 少年時代の補導歴は?
A: 少年法に基づく保護処分(保護観察、少年院送致など)は刑罰ではないため、欠格事由になりません。ただし、検察官送致(逆送)されて刑事処分を受けた場合は別です。
Q3. 執行猶予中だけど受験できる?
A: 試験は受験できます。ただし、執行猶予期間中は欠格事由に該当するため、登録はできません。執行猶予期間満了後なら登録可能です。
Q4. 自分が該当するか心配。確認方法は?
A:
- 過去の判決書を確認
- 刑の執行終了日を確認
- その日から5年経過しているかチェック
- 不安なら都道府県の宅建業所管課に相談
Q5. 虚偽申請したらバレる?
A: バレます。そして非常に重い処分を受けます。
- 登録・免許の取消
- 5年間の再登録・再免許不可
- 刑事罰の可能性
絶対にやめましょう。
第7章:試験本番での戦略
時間配分
欠格事由の問題は、1問あたり2~3分で解けるようにしましょう。
解答の手順
- まず主語を確認:宅建業者か、宅建士か
- 刑罰の種類を確認:禁錮以上か、罰金か、科料か
- 犯罪の種類を確認:罰金刑で欠格事由となる犯罪リストに含まれるか
- 5年の判断:復権・執行猶予なら5年不要
消去法のコツ
確実に間違いだと分かる選択肢から消していきましょう。
第8章:合格後の手続きで気をつけること
登録申請時のチェックリスト
- [ ] 欠格事由に該当しないことの誓約書
- [ ] 身分証明書(成年被後見人等でないことの証明)
- [ ] 登記されていないことの証明書
- [ ] 住民票
- [ ] 合格証明書
虚偽申請は絶対NG
「少しくらいバレないだろう」という考えは危険です。
バレた場合:
- 即座に登録取消
- 5年間再登録不可
- 社会的信用の失墜
- 刑事罰の可能性
まとめ:欠格事由マスターへの道
重要ポイント総まとめ
- 宅建業者と宅建士の欠格事由は微妙に違う
- 禁錮以上の刑は、どんな犯罪でも5年間NG
- 罰金刑は、一定の犯罪のみNG
- 復権・執行猶予期間満了なら、5年待たずにOK
- 詐欺罪・器物損壊罪・過失傷害罪は罰金刑ならOK
- 科料・拘留は、どんな犯罪でもOK
- 未成年者の扱いは、宅建業者と宅建士で違う
最終チェック
試験前に、以下を確認してください:
- [ ] 一定の犯罪リストを暗記した
- [ ] 復権・執行猶予の扱いを理解した
- [ ] 過去問を5年分解いた
- [ ] 引っかけパターンを把握した
おわりに
欠格事由は、一見複雑に見えますが、パターンを理解すれば確実に得点できる分野です。
この記事で紹介した内容をしっかり押さえて、本試験で2~3問を確実にゲットしてください!
合格を目指すあなたを応援しています!
【参考資料】
- 宅地建物取引業法 第5条、第18条
- 不動産適正取引推進機構 過去問題集
- 国土交通省 宅建業法の解釈・運用の考え方
【関連記事】
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